当研究は、赤外非線形光学素子用材料として期待されるカルコパイライト型化合物半導体AgGaS_2に関して、大型単結晶の育成および単結晶の良質化による波長変換の高効率化ならびにレーザ照射損傷閾値の向上を目的として行われた。設備備品費で購入した定電圧電源装置を電源として用いることにより、単結晶成長用電気炉の制御温度の変動は従来の約2分の1に低減され、この電源を用いない場合結晶に含まれる双晶境界の数は10であったが、これを用いた場合に同条件で作製した結晶では4に減少し、温度変動の低減が双晶発生の抑制に有効であることを確認した。単結晶成長には垂直温度勾配凝固法を用い、成長管の内径は10mmφとした。 冷却速度と温度勾配を変えて結晶成長を行った結果、双晶境界の数は温度勾配が小さい方が少なく、また冷却速度が大きくなるに従って減少した。冷却速度を変えて作製した3つの単結晶の転位密度および赤外透過スペクトルはいずれの結晶も大きな差異はなかったが、冷却速度が大きい場合、当該単結晶では従来の他研究において見出されていた欠陥の存在を示す深い準位からの発光がなく、励起子発光のみ顕著なスペクトルが観測され、結晶の完全性が高いことを示した。さらに、このスペクトルを示した単結晶について、第2高調波強度のレーザ入射角度依存性を測定し、精確な位相整合角を明らかにした。以上の結果から、温度勾配が小さく、冷却速度が大きい条件が良質な単結晶の成長に適していると考えられ、これらの結果をもとに大型単結晶の育成を行った。その結果、2本双晶境界を含むが、結晶粒界や割れのない20mmφ×25mmの大きさの結晶を得ることができた。 当研究により、波長変換の高効率化に向けて、双晶をほとんど含まない単結晶において、従来の報告と比較して光学特性に優れた単結晶を育成するための手段および条件を明らかにすることができた。
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