本年度の研究は、マイクロエマルション/人工高分子系とマイクロエマルション/タンパク質系の2系統で行った。人工高分子系では、高分子としてポリアクリルアミド(PAM)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアリルアミン(PAN)の3種類を用い、界面活性剤としてはAerosol-OT(AOT)を用いた。AOTを含んだ有機溶液に、所定濃度の高分子水溶液を注入することでマイクロエマルションを作成し、その溶液の粘度およびx線小角散乱SAXSを計測した。その結果、高分子の種類によらず粘度はAOT濃度が0.3M程度まで高分子の影響を受けないことが分かった。しかし、水とAOTのモル比が小さいときには、AOT濃度を0.5M程度以上にすると高分子の添加により粘度が数倍上昇し、その上昇の程度は高分子の種類や分子量によって大きな影響は受けなかった。SAXSの結果からは、PAN系のみ組織形態がAOTのみのときの球から変化し、円筒状になった。このような場合は、円筒の充填が密なとき(AOT濃度が高いとき)に粘度が上昇することは容易に理解できる。しかし、PAA、PAMの系では、SAXSに顕著な高分子の影響は見られず、上記条件での粘度の急激な上昇は、組織間の近接相互作用が高分子の影響で変化するのではないかと想像されるが、詳細は不明である。組織形状に対するPANの特異性は、PANがカチオン性の高分子であることが原因と思われる。タンパク質系では、非イオン性界面活性剤からなるマイクロエマルションがタンパク質に対して変性などの影響与えないことを明らかとした。この結果は、マイクロエマルションによるタンパク質の分離や酵素反応に対して、大きな利点であると考えられる。そこで、幾種類かのタンパク質について、タンパク質のマイクロエマルションへの抽出、及び、マイクロエマルション系での酵素反応実験を遂行した。その結果、非イオン性界面活性剤系はタンパク質の抽出に対しては、タンパク質の変性を防ぎ、また場合によっては分離の選択性を強く高めることがわかった。さらに、非イオン性界面活性剤系では、これまでのAOT系に対して、かなり高い酵素活性を示すことを明かとした。
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