研究概要 |
バナジウムーリン系複合酸化物のうちP/V比が2つのものに着目し、その結晶化過程やブタンからの無水マレイン酸(MA)合成能を明らかにするとともに、第3成分金属の添加効果について検討した。P/V=2の複合酸化物は、500〜600°Cでの焼成後はアモルファス状態であるが、さらに焼成温度を上げると(VO)2P4O12相が成長しはじめ750〜780°C焼成後は(VO)2P4O12相単相となった。また、800°C以上の焼成では(VO)2P4O12相以外に不明相が現れた。このような結晶化過程は赤外吸収スペクトルにおいても確認された。これら種々の焼成温度の触媒を用いてブタン酸化反応を行ったところ、780°C以下で焼成した触媒は50mol%程度のMA選択性を示した。一方、800°C以上で焼成した触媒ではMA選択性は35mol%以下に低下し、不明相の生成がMA合成を妨げていることがわかった。このようにP/V=2の(VO)2P4O12相あるいはこれとアモルファス相の混合相を有するV-P-O触媒は、従来から活性相といわれている(VO)2P2O7相(P/V=1)を含まないにもかかわらず、比較的高いMA合成能を有することがわかった。 その一方で、P/V=2のV-P-O触媒は比表面積が2〜3m^2/g程度であり、ブタン酸化活性はあまり高くない。これを改善するためにBi,Mg,Mn,Coなどの第3成分金属イオンの添加を試みた。その結果、500°C焼成後のアモルファス触媒において顕著な効果が見られた。特に、Co添加触媒においては、単独触媒の高いMA選択率を維持しつつブタン酸化活性が向上しており、単独触媒に比べてMA収率が増大した。しかし、780°C焼成により結晶化させると、すべての金属イオンの添加の場合についてMA収率は低下した。金属イオンは、アモルファス状態では触媒内部に取り込まれて特性を改質するのに対し、結晶状態では内部に入ることができず、MA合成を妨げるものと考えられる。
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