本研究で得られた知見を以下にまとめる。 (1)塩素イオン識別素子としてのハロロドプシン Halobacterium halobiumを凍結融解法を用いて破壊し、細胞膜小胞体を調製した。懸濁液にFCCPを加え、光照射を行ったところ、懸濁液のpHがアルカリ側にシフトした。このことから、細胞膜小胞体でハロロドプシンは塩素イオンを小胞体内に取り込む向きに配勾していることが示された。 (2)脂質2分子膜修飾電極の作製 真空蒸着装置を用いてガラス基板上に金電極を作製し、1%オクタデシルメルカプタン溶液で処理した。FT-IRで表面を測定した結果、表面にSH基が確認された。このことにより電極表面がアルキル基の導入により疎水化されたことが示された。水面上に調製した脂質単分子膜を水平付着法によりこの電極上に移し取り、脂質2分子膜修飾電極を作製することができた。 (3)塩素イオンセセサ-の作製および特性の検討 細胞膜小胞体懸濁液中に脂質2分子膜修飾電極を浸すことにより細胞膜小胞体を電極上に吸着固定化した。ハロロドプシン固定化電極に黄色光を照射すると過渡的な電流変化が観察された。光照射を止めると、照射したときは逆向きの過渡的な電流変化が観察された。塩素イオンが存在しない場合はこの過渡的な電流は観察されなかった。さらにこの電流のピーク値は塩素イオン濃度の増加とともに増加し、この電流の塩素イオン濃度依存性はフラッシュフォトリシスで測定したそれとよい相関を示した。これにより、この電流はハロロドプシンによる塩素イオンの輸送を反映していると考えられる。また、電流変化の方向は細胞膜小胞体中でのハロロドプシンの配向と関係していることも示された。この電極の光誘起性電流の塩素イオン濃度依存性について検討した結果、本電極が塩素イオンセンサーとして有用であることが示された。
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