研究概要 |
芳香族炭化水素のカチオンラジカルの発光は観測されないことから光励起状態がきわめて容易に無輻射失活すると思われてきたがその理由は不明であった。本研究においては本研究代表者が開発したパルスラジオリシスとレーザーフラッシュホトリシスを組み合わせた測定系を用いて芳香族オレフィン、芳香族シクロブテン、および芳香族シクロブタンのカチオンラジカルの光励起状態を生成し、その物理および化学的特性の解明を試みた。 1.芳香族オレフィンカチオンラジカルの光励起状態 シスおよびトランススチルベンカチオンラジカルの光励起状態を消光し、それぞれの寿命として120psおよび240psが得られた。シススチルベンカチオンは基底状態におけるトランススチルベンカチオンへの異性化はきわめて遅いが、光励起状態では量子収率0.5で励起レーザーのパルス幅内(5ns)に異性化した。 2.芳香族シクロブテンカチオンラジカルの光励起状態 3,3,4,4,-テトラメチル-1,2-ジフェニルシクロブテンのカチオンラジカルは基底状態では全く環開裂を起こさないが、光励起状態では励起レーザーのパルス幅内(5ns)に環開裂した。一方メチル基をもたない1,2-ジフェニルシクロブテンおよび1,2-ジアニシルシクロブテンのカチオンラジカルは光励起状態でも全く環開裂を起こさず、光励起状態の反応性に対する芳香環およびシクロブテン環上の置換基の電子的および立体的効果が明らかにされた。 3.芳香族シクロブタンカチオンラジカルの光励起状態 t,t,t-1,2,3,4-テトラフェニルシクロブタンのカチオンラジカルの基底状態は数十マイクロ秒のオーダーでゆっくりと環開裂して中性スチルベンとスチルベンカチオンラジカルを与えた。一方、光励起状態は励起レーザーのパルス幅内(5ns)に環開裂した。 いずれの場合もカチオンラジカルの光励起状態からの発光はきわめて弱く、反応経路が存在しない場合にはきわめて効率よく無輻射失活することが明らかにされた。
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