研究概要 |
複雑な3次元構造を有する生理活性天然物を効率的に合成するためには、立体選択的な炭素-炭素結合形成反応が必須である。これに対し、本研究では、従来、合成法として全く利用されていなかったカルバニオン[1,2]転位に着目し、その実用化とともに生理活性物質の不斉合成への活用を検討した。その結果、環状アセタール系、ケタール系での[1,2]転位が高収率かつ高立体選択的に進行し、優れた炭素-炭素結合反応となることを見いだした。これはカルバニオン[1,2]転位の実用化に成功した最初の例であるとともに、“立体特異的なC-グリコシド合成法"として極めて有用な反応を開発したことになる。また、本転位はラジカル中間体を経由して進行しているにもかかわらず高立体選択的(転位基側では完璧な立体保持であり、このことから“ラジカルエナンチオマー間の相互認識"という興味深い現象を見出した。これは不斉ラジカル化学の新展開につながる重要な知見と考えられる。さらにこの新転位を活用してコレステロールの生合成阻害物質として重要なZaragozic acid A生理活性物質の不斉合成を検討した。その結果、入手容易な糖誘導体garactono lactoneから調製した環状アセタールの[1,2]転位によってZaragozic acid Aコア部分の前駆体不斉合成に成功した。現在、その全合成を目指し、検討中である。
|