研究概要 |
これまで有機遷移金属錯体の研究は、基礎、応用ともにリン配位子を有する錯体を中心に展開されてきており、窒素配位子を持った錯体に関しては未だ未知の部分が多い。本研究では、新規なルテニウム-アミン錯体を合成し、アミン配位子を有する金属上の反応性を解明する計画を立てた。トリス(ピラゾリル)ボレート(Tp)は窒素三座のアニオン性キレート配位子であり、不安定な錯体種を安定化する機能を有している。そこでTpの特徴を生かしてルテニウムジカチオン錯体やカチオン性ルテニウムアルキル錯体を安定に単離し、それらの基礎的な反応性を明らかにした。 1)ジカチオン性を有するトリス(ピラゾリル)ボレートルテニウム錯体の合成と反応性 Tpの持つ分子内ツビッターイオン形成能に着目し、TpRuCl(cod)錯体から塩化物イオンを銀塩で除去することで安定なルテニウムジカチオン錯体を発生させることに成功した。この錯体は強いルイス酸的性質を持っていることが期待されており、現在これを触媒として用いた合成反応の開発を行っている。 2)トリス(ピラゾリル)ボレートルテニウム-アルキル錯体の合成と反応性 Tpを有する有機ルテニウム錯体はほとんど知られていなかった。そこでTpRuCl(cod)とトリアルキルアルミニウムとの反応によって、トリス(ピラゾリル)ボレートルテニウム-アルキル錯体TpRuR(cod)(R=Me,Et)を合成することに成功した。Tpの効果によってルテニウムが強いカチオン性を帯びていることを明らかにした。また、エチル錯体の分解挙動を調べ、β-水素脱離によるヒドリド錯体形成の反応条件を調査した。
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