同位体ラベル法と固体NMR法を用い、その利点を生かして高活性を有する状態でのメリチンやグラミシジンAのような膜ペプチドの原子レベルでの立体構造解析をするためには、配向した脂質二重層中に膜ペプチドを埋め込み配向を制御する必要がある。本研究では脂質二重層の配向系を作製し、化学シフトが線形を支配するためにリン脂質の状態に線形が極めて敏感である31Pを測定核として、固体31PNMRによりそれをモニターした。ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を有機溶媒に溶解、それをガラスプレート上に均一に広げ、サンプルホルダー中に積み重ねた。約60%に水和し、両端をシリコン栓とエポキシ系の接着剤を用いて密封し、45°Cに保ったインキュベータ-中に放置し、配向試料とした。配向試料についてガラス面(脂質のアルキル分子はガラス面に垂直)と磁場方向が垂直もしくは平行となるように設定して固体31PNMR(JEOL GX400 NMR測定モードGated high power decoupling)を測定した。その結果、約60%に水和したDMPCの無配向パウダーパターン(isoは等方ピーク)、約一週間、45°Cに保った配向試料をガラス面が磁場BOに垂直になるように設定し測定、およびガラス面が磁場BOに平行になるように設定し測定した各固体31PNMRスペクトルのピークは、乾燥粉末(運動なし)のパウダーパターンと大きく異なり、アルキル分子軸を中心として回転する軸対象運動を行っていることをを示していること、また、主ピークの位置は著しく異なり、それぞれは(1)におけるσ||σ⊥の値に対応した。このことより本実験条件にて作成された配向試料は、おおむねDMPCのアルキル鎖がガラス面に垂直に配向しており、軸対称運動を行っていることがわかった。さらに、この配向脂質膜に、モデルペプチドを導入することによって、脂質中のペプチド配向を直接観測することに成功した。
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