研究概要 |
高分子の成形加工過程において熱の制御は重要な問題である。しかしながら高分子の溶融温度域ならびに1次転移に対応する実用温度範囲における熱拡散率の測定は原理的に困難な場合が多く測定例は少ないのが実状であった。本研究では 原理的に全く新しい測定法として 交流温度波を用いた高分子の熱拡散率測定法を提案し かつまた1次転移における潜熱を同時に測定するシステムを開発した。 (1)測定システムは 正弦波発信器、2位相型ロックイン増幅器、直流増幅器、温度制御器、温度計測器、ヒ-タブロックおよびパソコンから構成した。交流温度波ならびに潜熱を検知するセンサーとして金薄膜抵抗を用い その抵抗変化を電圧変化に換算して 交流成分と直流成分それぞれを増幅して検出する方法をとった。直流成分の検出にはDTAの原理を利用してリファレンスを用いた直流ブリッジ回路を作成した。試料の温度計測には 金薄膜抵抗の抵抗変化を利用するとともに熱電対素線による多点測定を行った。またヒーターブロックの温度制御には交流ノイズを避けるため直流制御を行った。測定に供する試料は1mmx4mmx50μmと微少であることもまた特徴のひとつである。 (2)上記測定システムにより等速昇降温過程における熱拡散率およびDTAの同時測定が可能となった。金薄膜センサーの抵抗変化を同時に交流、直流成分に分割して測定するため、特に結晶性高分子の融解、結晶化における潜熱発生下での熱の拡散現象を詳細に観測することが可能となった。具体的にはPP,PE,PET等について室温から300℃までの温度範囲で等速昇降温過程における交流温度波の振幅、位相遅れ およびDTAによる潜熱の発生を同時に観測した。交流温度波と潜熱はそれぞれ独立に観測されるが 周波数が低く(kd〜1)、昇降温速度が速い(〜10℃/min)場合は 発生した潜熱が熱拡散に影響を及ぼすことがわかった。
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