研究概要 |
本研究では、平面ジグザグ鎖からなる高分子の結晶状態における分子運動を一次元および二次元固体^<13>CNMR法により調べ、メチレン連鎖の分子運動に対する官能基導入の影響について検討した。試料は、ポリエチレン単結晶(PESC、[-CH_2-]_n)、等温結晶化したポリ-ε-カプロラクトン(PCL、[-O-^1CO-^2CH_2-^3CH_2-^4CH_2-^5CH_2-^6CH_2-]_n)およびポリテトラメチレンオキシド(PTMO、[-O-^1CH_2-^2CH_2-CH_2-CH_2-]_n)を用いた。PESCの室温での化学シフト異方性(CSA)スペクトルは、運動が凍結されたシミュレーションスペクトルとほぼ一致し、10^3Hz程度の運動は凍結されていることがわかった。PCLでは、C1炭素のCSAは剛直状態のものとほぼ一致しており、官能基部分はほとんど運動をしていないことがわかった。一方、その他のメチレン炭素のCSAは、すべて主値σ11とσ22が等しい軸対称スペクトルになっていた。特に、C3,C4,C5炭素に対してはσ33に対しても平均化が起こっていた。これらのCSAのシミュレーション解析から、C2およびC6炭素に対しては、分子鎖軸まわりの90°ジャンプ運動が、C3〜C5炭素では、この運動に加えC-C bondまわりの運動が起こっていることがわかった。PTMOにおいてもPCLと同様、C2炭素の運動はC1炭素の運動に比べより活発であることがわかった。以上のように、二次元switching angle sample spinning等の方法を用いたCSAの測定およびそのコンピューターシミュレーション解析より、高分子の10^2〜10^4Hzの分子運動を明らかにすることができた。その結果、官能基の導入によりメチレン炭素は、特に官能基から離れた位置で、結晶であるにもかかわらず激しく運動していることがわかった。一方、官能基部分は融点近傍に至るまでほぼ剛直状態であった。メチレン炭素が運動しているにもかかわらず結晶構造を保持しているのは、このためであると考えられる。
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