研究概要 |
燃料の点火遅れは電界の印加により変化するが,このとき,正イオンや炭素粒子などの荷電粒子の移動および自続放電が重要な役割を果たしていると考えられる.気相で生成される荷電粒子の移動が支配的な因子であると仮定すると,その燃焼反応では荷電粒子がほとんど生成されない水素-空気混合気の点火遅れは,電界の影響を受けないと考えられる.そこで,本研究では,水素-空気混合気の熱面点火における点火遅れに及ぼす直流電界の影響について調べた.ただし,直流電界はニッケルまたはタングステン製の熱面とその近くに配置した電極板との間に印加した.さらに,熱面と電極板との間を流れる電流の測定,点火にともなう発光の分光測定,および化学イオン化反応を考慮した点火の数値解析を行い,その結果を用いて,電界が点火遅れに影響を及ぼす原因について考察を行った.本研究の結果,以下のことが明らかとなった. 1.水素-空気混合気の熱面点火における点火遅れも直流電界の影響を受ける. 2.直流電界が点火遅れに及ぼす影響は,直流電界の方向と熱面の材質により大きく異なる.電極板に正電圧を印加したときには,電圧が小さい場合には点火遅れがわずかに増大するが,電圧が大きくなると点火遅れは逆に大きく減少する.この変化は熱面の材質によらない.一方,負電圧を印加したとき,熱面がニッケルの場合には点火遅れが半減するのに対し,タングステンの場合には点火遅れの減少がわずかである. 3.正電圧を印加したときに,電圧が大きくなると点火遅れが大きく減少するのは,熱面と電極板の間で発生する自続放電が原因であると推測される. 4.直流電界が点火遅れに影響を及ぼすのは,熱面における表面反応や自続放電が主な原因であり,気相の化学イオン化反応により生成される荷電粒子は重要な役割を果たしていないと推測される.
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