研究概要 |
植物病原糸状菌の生成する細胞壁分解酵素は,植物への感染時に細胞壁構成成分を分解して菌の細胞内への侵入を容易にし,感染成立のための病原性機能のひとつとして働く可能性をもつ。本研究においては,遺伝子操作のシステムが確立しているAlternaria属菌のカンキツbrown spot病菌を用い,本菌の生成する細胞壁分解酵素の精製,遺伝子のクローニング,およびその遺伝子を用いた遺伝子破壊法による本酵素の病理学的評価を行う。本年度は、蛋白質分解酵素の基質としてスキムミルクを含んだ液体培地にて本菌を静置培養し,そのろ液中に本菌が生成した酵素を純化した。酵素精製においては,各種蛋白純化カラムを用いて高速液体クロマトグラフィーを行なった。本研究費の申請後から現在までにすでに2つの異なるプロテアーゼの単離に成功した。その他,ペクチンを基質として本菌を静置培養し,ろ液に分泌されたポリガラクツロナーゼ(PG)の単離にも成功した。これらの単離酵素は,それぞれSDS-PAGEで単一バンドとして確認された。単離した酵素は,次に酵素分子中の部分的なアミノ酸配列を決定に用いている。先に単離した蛋白質分解酵素の1つについてはN末端からのアミノ酸配列決定を試みたが,N末端がブロックされていたため現在トリプシン処理により本酵素由来のポリペプチド断片をつくり,それら断片からのアミノ酸配列の決定を試みている。配列決定後は,その配列をもとにオリゴヌクレオチドを合成して本酵素遺伝子単離のためのプローブまたはPCRのプライマーとしてもちいる。PGについては,近系糸状菌のPG遺伝子が本菌のPG遺伝子と強くハイブリダイズすることが明らかとなったので,現在これをヘテロロガスなプローブとして用いゲノムライブラリーをスクリーニングしている。これらの結果は,日本植物病理学会全国大会(平成8年春大会)および関西部会(平成7年秋大会)にてすでに発表した。
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