研究概要 |
ヒドロゲナーゼによる水素生産では、酸素や熱に対して安定な酵素が求められている。海水より単離されたHydrogenovibrio marinusは水素酸化細菌としては極めて酸素耐性が強く、pO_240%という高酸素分圧下においても良好に生育するため、本菌のヒドロゲナーゼの耐酸素性の高さが期待された。 本菌をH_2/O_2/CO_2の培養ガスで培養後、無細胞抽出液を調製して本酵素の諸性質を検討した。水素酸化活性はメチルビオローゲン(MV)を電子受容体として、水素気相下における吸光度の上昇速度から求めた。水素発生活性は還元型MVを電子供与体として、水素発生速度を溶存水素電極またはGCを用いて測定した。本酵素は同じ好気性水素酸化細菌であるAlcaligenes eutrophusの酵素と比較してもかなり安定性が高く、air中でH.marinusの酵素は12h経過後も87%、28h経過後も60%の活性を示したのに対し、A.eutrophusでは2h後には36%の活性となった。またO_2中ではH.marinusでは12h経過後も23%の活性を保持したが、A.eutrophusは5hで活性を失った。 本菌は中温菌であるが、驚くべきことにヒドロゲナーゼの至適温度は90℃であった。またair中で70℃,50min処理しても90%程度の活性を保持し、さらにH_2気相下で熱安定性は顕著に増大し、90℃,80min加熱後も100%の活性を保持するなど、100℃以上に生育至適温度をもつ超好熱菌の酵素にも匹敵する程の熱安定性を示した。従って本酵素の研究によりヒドロゲナーゼの酸素耐性や熱安定性に関する新知見が得られることが期待された。 本酵素は水素酸化反応と水素発生反応の至適pH(それぞれpH9.0とpH5.5)が大きく異なるため、pHにより反応平衡をコントロールできると考えられた。pH5.5における水素発生活性/水素酸化活性の比は25.1と極めて高く、水素生産に適していることが示された。
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