研究概要 |
Saccharomyces cerevisiaeの酸化的ストレス応答におけるグルタチオン(GSH)の重要性を検討するため、カタラーゼ(CTT1)とGSHの合成系の律速酵素であるγ-グルタミルシステイン合成酵素遺伝子(GSH1)のknockout mutantを作成し、それらのH_2O_2ストレスに対する応答を検討した。その結果、カタラーゼを破壊しても細胞は野生株と同等のH_2O_2耐性、並びにH_2O_<>ストレスに対するadaptation(微弱な1次ストレス処理による致死的な2次ストレスに対する耐性の獲得)を示した。これに対し、gsh1Δ変異株ではH_2O_2に対する感受性が極端に増大し、adaptationも全く獲得することができなくなった。これらのことから、S. cerevisiaeでは酸化的ストレス応答にGSHが重要な役割を果たしていることを確認できた。 次に酵母の老化と酸化的ストレス応答について検討した。出芽を繰り返した細胞と、一度も出芽を経験していない未出芽細胞を、その細胞サイズを指標に分画した。出芽を繰り返した細胞をキチンに特異的な蛍光色素で染色し蛍光顕微鏡下で観察すると、その細胞表面は出芽痕によって覆われていた。出芽を繰り返した細胞と未出芽細胞の酸化的ストレスに対する耐性とadaptationについて比較した。その結果、出芽を繰り返した細胞の方が酸化的ストレスに対する耐性、adaptation能ともに高かった。H_2O_2を消去する酵素であるカタラーゼやチトクロームcペルオキシダーゼ遺伝子の発現レベルに及ぼす酸化的ストレスの影響を検討した。出芽を繰り返した細胞と未出芽細胞でそれらの遺伝子のmRNAレベルに変化は認められなかったのに対し、細胞内GSH含量については前者は後者より高い傾向を示した。 そこで、出芽を繰り返した細胞と未出芽細胞の酸化的ストレス負荷後の呼吸欠損株(=ミトコンドリア変異株)の出現を比較することにした。しかし今回実験に供したS. cerevisiae YPH250株(Yeast Genetic Stock Center, University of California at Berkeley, California)ha10〜20%の呼吸欠損株を最初から含んでいた。培養をグリセロール培地で行うことによりspontaneousな呼吸欠損株の出現頻度を5%程度にまで低減させることができたが、酵母の老化における呼吸欠損株の出現頻度と酸化的ストレスとの直接的な関係を検討するには至らなかった。そこで酵母の生育期の違いによる酸化的ストレスによる呼吸欠損株の誘導を比較した。その結果、対数生育期の細胞の方が定常期の細胞より呼吸欠損株の出現頻度が高かった。
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