抗体の抗原結合部位を構成する重鎖及び軽鎖の可変領域のうち、特異性は主に重鎖の可変領域が規定しているとの考え方が支持されている。そこで重鎖をサポートする軽鎖を修飾することで、特異性及び親和性を修飾し、ヒト型抗体作製における問題点を克服できると考え、二つの方法を検討した。一つは、本来の軽鎖を別の軽鎖と置換することによる本来の抗体の持つ結合活性を上回る抗体の作製、もう一つは軽鎖に結合した糖鎖を介するものである。申請者は軽鎖の抗原結合部位に糖鎖が結合した肺ガン特異的ヒト型抗体を発見しており、この抗体を用いて、抗体の抗原認識における可変領域結合糖鎖の機能を明らかにするとともに、糖鎖構造の修飾による積極的な抗体の機能改変を検討した。各種ガン特異的ヒト型モノクローナル抗体の重鎖の遺伝子を発現ベクターにクローニングし、これらを種々の軽鎖を発現している細胞に導入、発現させた。こうして得られた形質転換細胞の分泌する抗体の結合活性を測定し、その中から、交差反応性や結合力において優れた組換え抗体をスクリーニングした。さらにこの過程において、ヒト型ハイブリドーマの中に、軽鎖の多型発現が高頻度に起こることを発見した。この細胞は可変領域の異なる様々な軽鎖を分泌する`軽鎖幹細胞`とでも呼べるものであった。この細胞に、機能改変したい重鎖遺伝子を導入、発現することで、親和性が増大した抗体が作成できた。一方、糖鎖構造の多様性からの軽鎖多様性獲得へのアプローチを試みた。糖鎖構造はそのタンパク質を生産する細胞の培養環境に大きな影響を受ける。そこで、抗体を生産している細胞の培地中のグルコースを他の単糖に置き換えることにより、軽鎖の糖鎖構造の改変を検討した。その結果、N-アセチルグルコサミンの添加により、特異な糖鎖構造を有する軽鎖が誘導され、最大20倍もの親和性の増大が観察された。
|