ほとんどの高等植物や多くの真菌類のミトコンドリアにはシアン耐性呼吸系が存在する。コエンザイムQと酸素間の電子伝達を触媒するシアン耐性末端酸化酵(A1ternativeoxidase)はこの呼吸系の構成成分である。本研究では、酵母Hansenula anomalaにおいてシアン耐性呼吸活性の調節には、核ゲノムに存在するシアン耐性末端酸化酵素遺伝子の発現とそれによって合成される酵素量が重要であることをまず明らかにした。 さらに、酵素量以外にも、ヌクレオチドによって呼吸系自体の活性が調節されているという興味深い現象を見出した。すなわち、アンチマイシンA処理によりシアン耐性呼吸を誘導した酵母からミトコンドリアを単離し活性を測定したところ、シアン耐性呼吸活性はアデノシン5′-一リン酸(AMP)やグアノシン5′-一リン酸(GMP)の添加によって促進されることが判った。なお、アデノシン5′-三リン酸(ATP)には活性促進作用は観察されなかった。また、この活性上昇はコハク酸とNADHのいずれを呼吸基質にした場合でも認められたことから、コエンザイムQ以降の電子伝達が促進されたものと考えられた。これらの結果からシアン耐性末端酸化酵素自身がヌクレオチドによって活性化されることが示唆された。 シアン耐性呼吸系は酸化的リン酸化と共役していないため生体内エネルギーの無駄になると考えられてきた。しかし、その活性がアデノシン5′-一リン酸により促進されることから、この呼吸系もエネルギー代謝に何らかの関係があるのではないかと推察される。今後の詳細な解析が必要ではあるが、シアン耐性呼吸系が作用することにより基質レベルでのリン酸化が促進される可能性も考えられる。
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