枯草菌はグラム陽性菌の中で最も研究が盛んな原核生物であるが、この菌のカタボライト抑制は分解系の酵素誘導や細胞分化のモデルである胞子形成の制御に重要な役割を演じている。このカタボライト抑制の制御系は大腸菌で明らかにされたcAMPの関与する正の制御系では説明できない未知の制御系であると考えられている。枯草菌の分解系オペロンの中で最も研究の進んだグルコン酸オペロンのカタボライト抑制の制御機構を分子レベルで解析することによりその制御機構の解明を目指す。 1.グルコン酸オペロンのカタボライト抑制に関与するcis配列の解析 グルコン酸オペロンのカタボライト抑制に関与するcis配列はプロモーターの近傍と下流の2箇所に存在する。そこでプロモーターの近傍と下流のcis配列による抑制系がそれぞれ独立に作動していることを照明するために近傍と下流に存在するcis配列内で共通配列から特に保存されていると思われる塩基に変異を導入し、カタボライト抑制の影響を解析した。その結果、プロモーターの近傍と下流のcis配列による抑制系がそれぞれ独立に作動していることが明らかになった。 2.グルコン酸オペロンのカタボライト抑制の転写調節機構の解析 申請者はカタボライト抑制下でプロモーターの下流にあるcis配列を含む領域で転写量の減少を観察している。このことから下流にあるcis配列によるカタボライト抑制の制御系が転写伸長を妨害する機構(転写のロードブロック機構)であると考え、この仮説を立証するためにノーザンブロット方によりカタボライト抑制下で(in vivo)転写伸長がブロックされた転写産物の同定を試みた。その結果、プロモーターの下流にあるcis配列付近で転写伸長が妨害された転写産物を同定することができた。しかし、この転写伸長妨害をin vitroで再現するに至らなかった。
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