本申請研究ではアクツミンを乾燥重量当たり0.5%と高生産するM.dauricum培養根を用いて、(1)アクツミン骨格の形成、及び、(2)アクツミン骨格への塩素原子の導入について検討した。 (1)アクツミン骨格の形成 アクツミンはその構造からベンジルイソキノリン由来のアルカロイドと考えられている。本実験ではこの仮説の検証を行った。まず、^<14>C標識チロシンをM.dauricum培養根に投与し代謝させた。培養根から抽出した塩基性成分をHPLC分析し、アクツミンが強く放射能標識されることを示した。このことから、チロシンがアクツミンの構成単位であることを明らかにした。次に、^<13>C標識チロシンを用いて、アクツミンとチロシンの関係をさらに詳細に調べた。[3-^<13>C]チロシンを培養系に投与して代謝させた。得られた培養根よりアクツミンを結晶として単離した。この^<13>C標識アクツミン及び無標識アクツミンの^<13>C-NMRを測定し、両者のスペクトルを比較した。アクツミンの^<13>C-NMRスペクトルの帰属は別に行った。その結果、チロシンの3位の炭素はアクツミンの10位及び14位に特異的に取り込まれることが判明した。このことは、アクツミンが2分子のチロシンから成るベンジルイソキノリンを経て生成するという従来の推定生合成経路と一致した。 (2)アクツミン骨格への塩素原子の導入 アクツミンは骨格内に塩素原子を含む特徴的な植物二次代謝産物である。提唱されているアクツミン生合成スキームでは、塩素原子は骨格形成後に非酵素的に導入されると推定している。本実験では、培地成分のうち塩素を含む2種類の無機塩(CaCl_2とCoCl_2)の塩素を他の陰イオンに置き換えて塩素をほとんど含まない培地で根を培養し、得られた培養根の塩基性成分を精査した。その結果、塩素欠乏によりアクツミンの含量が減少し、それに伴って1成分の生成が増加した。この成分は各種スペクトルデータより、アクツミンの塩素が水素に置き換えられた構造を有していると考えられた。現在、立体構造を含めた詳細な構造解析を行っている。この成分がアクツミンの前駆体であるのか分解物であるのか、また、前駆体であれば塩素がどのような過程で導入されるのかについて今後検討を行う予定である。
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