研究概要 |
沖縄県国頭村(沖縄本島北部)の林道沿いのリュウキュウマツ林に、地形条件の異なる13カ所のプロットを設定し、8〜22年生のマツ樹体に生じる傷や漏脂胴枯病病患部の変化について、1995年5月から翌年3月まで時系列的に実態調査を行った。一方、1プロット内の健全なマツの枝を7,8,10,11,1,3月に付傷し、その後の変化を観察した。 付傷試験の結果、7〜12月には傷痍部からの本病の発病が確認された。野外で本病病原は通年で活動しているものと推察された。傷痍部からの本病の感染発病率は、年間を通じて低かった。試験地付近の気象観測値を検討したところ、付傷前後1週間の降水の有無および日照時間が本病の感染の成否に影響を与えることが示唆された。 実態調査の結果、マツの成長季を通じて、マツ枝は本病病原の感染が可能な損傷を多数受けたが、新たな病患部形成は少なかった。試験地の地形条件と傷または病患部の形成数には、関連が認められなかった。本病胴枯病徴は病患部長を緩やかに拡大し続け、回復に向かう例は認められなかった。胴枯部からの樹脂流出は調査期間を通じて認められ、流出量は9〜11月に多い傾向にあった。樹脂流出量の増加する時期の気温と培養基上での本病病原の生育好適温度とは、一致していた。胴枯病徴の解剖学的検討の結果、発病当年に軸方向に形成層の壊死が急速に進行し、その後はマツ組織の傷反応と病原の活動が拮抗し、緩やかに形成層壊死部が拡大していることが明らかにされた。 以上の結果から、漏脂胴枯病は平年には低い発病率にあるが、一時的な流行・蔓延によって永年性の胴枯病徴をマツ樹体に蓄積していくものと考えられた。本病流行の要因として、台風などによる樹体の損傷の激増や、水ストレスなど強度の環境ストレスの付加による樹体の抵抗性の低下などの因子の関与が推測された。
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