研究概要 |
リグニンの前駆物質であるモノリグノールのグリコース配糖体であるコニフェリンやシリンギンは樹木中に多く存在しているが,どのような役割を持つのかよくわかっていない.本研究は,未解明であったモノリグノールグルコシドからリグニンへの代謝経路について調べたものであり,その過程で3種類のリグニン前駆物質の組成比がどのような機構で制御されるのかを解明したものである。本研究の結果,モノリグノールグルコシドがリグニンに取り込まれる過程において,それらのアグリコンであるモノリグノール,すなわちp-クマリルアルコール,コニフェリルアルコールの段階で芳香環3位および5位にメトキシル基が導入されるという新規代謝経路の存在が証明された.さらに,この経路は,ヒドロキシル化とメチル化の2段階の反応であることがわかった.したがって,モノリグノールグルコシドはリグニンの組成比の制御においてきわめて重要なモノリグノールの供給源としてのプール機能を持つことが強く示唆された. また.モノリグノールグルコシドの樹幹内の分布と季節変動についても検討した.コブシ樹幹内において,コニフェリンは主に分化中木部に存在しリグニン形成時期にしか存在しないのに対し,シリンギンは主に樹皮(周皮や皮層)に存在し木化が進行していない冬季においても多量に存在していた.このことより,コニフェリンはリグニン前駆物質のプール形態として機能するが,シリンギンはそれ以外の目的のために蓄積されることが示唆された.
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