本研究は魚類の性決定機構を究明すると共に環境要因による性制御の可能性を探ることを最終目的として、ペヘレイなどのトウゴロウイワシ科3種の性分化過程を組織学的立場から明らかにし、性分化過程におよぼす水温などの環境要因の影響を検討したものであり、次のような結果が得られた: 1.ステロイドホルモン投与によってペヘレイの性転換が極めて容易であり、20℃前後における全雌を作出するために孵化後28日と49日(標準体長10.9と14.9mm)の間でEstradio117β25mg/Kgを添加した餌を給餌することが十分であると判明された。 2.ペヘレイとその近縁種の性分化過程は水温によって時期が異なり、また同一水温においても種によってその期間が大きく異なることが判明されたが、概ね孵化後28-58日の間に性分化が始まることがわかった。 3.ペヘレイ近縁種の性分化過程は水温に影響され、低温側では雌が多くなり、高温側では雄に偏った性比が得られる傾向が観察された。さらに、種または個体によって遺伝的・環境的性決定機構の強度が異なることが判明されたが、同一科の複数の種類で性決定機構が水温の影響を受けることから推察すると環境的性決定機構は分類的背景があると推察された。 4.ペヘレイの性決定時期は低温側(17-20℃)で孵化後25と50日(標準体長11と21mm)の間となり、高温側(22-25℃)で孵化後0と25日(標準体長7と15mm)の間となることが推察された。 5.ペヘレイの性決定機構がホルモンと水温に左右される時期は似ており、またいずれもに性分化過程の初期が含まれていることから推察すると両環境要因が性分化過程の同じ機構を制御している可能性が示唆された。 6.以上の結果から、魚類における水温による性制御の可能性が示唆され、今後に種類の範囲を広げてこの可能性を探ることが有意義であると考えられた。
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