研究概要 |
本研究は、降海型と湖産陸封型アユ仔魚の浸透圧調節に関する形質に相違があるか否かを明らかにすることを目的とした。降海型(筑後川産)アユおよび湖産陸封型(琵琶湖産)アユの受精卵を入手し、これらを淡水中で孵化させた。孵化仔魚は、海水に移行させ10日間飼育を行った。移行後の生残率を毎日調べると共に、仔魚中のNa,K-ATPase活性を測定して、両者の比較を行った。また、仔魚の組織切片を作製し、Na,K-ATPaseの特異抗体を用いた免疫組織化学による浸透圧調節器官の同定を行った。その結果、海水移行後の生残率は降海型および陸封型ともに高く、両者の間に有為な差は認められなかった。仔魚中のNa,K-ATPase活性は、海水移行に伴って上昇したが、移行後4日目から減少する傾向にあった。降海型仔魚の酵素活性は陸封型仔魚のそれより高い傾向を示したが、その挙動に差異は認められなかった。免疫組織化学の結果、孵化仔魚の鰓組織は充分に発達しているとは言えず、Na,K-ATPaseの局在も確認できなかった。しかし、卵黄嚢付近を中心に腹側の体表にはNa,K-ATPase抗体に陽性な細胞が観察された。この細胞は、数、サイズ共に個体差が大きく、降海型と陸封型の差異を明らかにするには至らなかった。本研究の結果、アユは孵化直後から既に海水適応能を獲得していることが示唆された。また、この時期の浸透圧調節は、体表に存在する特殊な細胞で行われている可能性が高い。陸封型の孵化仔魚も海水適応能を有しているが、その能力は降海型のそれよりやや低いと考えられる。しかし、この程度の形質の差が河川放流した湖産アユ仔魚の降海および遡上に影響を及ぼす可能性は少ないと思われる。ただし、鰓の発達に伴って、海水への適応能力に差が生ずることも予想されることから、初期発生に伴う浸透圧調節能の変化についても調べる必要があろう。
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