アナゴ類の性成熟に関する生理学的知見を得るため三陸沿岸で捕獲されたギンアナゴおよびマアナゴの生殖腺の発達状況を調べると共にホルモン投与による産卵誘発を試みた。また、マアナゴの周年飼育を行い、雌魚の卵巣発達過程と、それに伴う脳下垂体、肝臓の組織変化及び血中性ステロイドホルモン量の変化を調べた。 ギンアナゴ:9月のみ排卵間近と思われる卵黄形成末期の個体が採集された。そこで水槽内で性腺刺激ホルモン投与による産卵誘起を行ったが、排卵および産卵に至った個体は得られなかった。 マアナゴ:漁獲された個体の卵巣はいずれの時期においても未熟であったが、1994年11月より約1年に渡り水槽内長期飼育を行った結果、体重500g以上の大多数の個体が卵黄形成を開始した。生殖腺体指数(GSI)は12月から翌年6月にかけて上昇し、6月に平均4.8のピークに達した後、減少した。卵母細胞のステージは、11〜12月には周辺仁期あるいは油球期であったが、1〜4月にはGSIの上昇に伴い卵黄球期初期の個体が多数出現した。6〜7月では大部分の個体が卵黄球期であったが一部の個体で卵母細胞の退行像が確認された。8月以降、すべての個体の卵巣には卵黄球期の退行卵が観察された。肝細胞では卵黄球期には細胞中の脂肪が肥大したが、退行卵を有する個体では減少した。脳下垂体前葉主部中の生殖腺刺激ホルモン産生細胞と推察されるアルデヒドフクシン(AF)陽性部は、6月の卵黄球期および退行卵を有する個体で著しく増加したが、その後卵巣内の退行卵の増加とともにAF陽性細胞は減少した。血中ステロイドホルモン量をRIA法にて測定した結果、テストステロンはGSIの変化と比較的良く一致し、6月に平均7.93ng/mlのピークに達した後、減少した。しかし、エストラジオール-17βは1月の卵黄球期初期にピーク(3.53ng/ml)を迎えた後、減少し低値を維持した。本実験の飼育環境下ではマアナゴ雌は1月以降に卵黄形成を開始するものの、6〜7月にかけてその大部分の個体は卵黄形成途上で退行することから、ギンアナゴの結果と同様に何らかの産卵環境要因の欠如が示唆された。現在これらの結果を基に、卵黄形成のピーク時と思われる3月より生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン投与を行い、産卵誘起の可能性を検討中である。
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