研究概要 |
生体膜を生理機能を保持した状態で単離し,それを用いて筋細胞内でのリン脂質加水分解のモデル構築とリン脂質加水分解に影響を及ぼす種々の要因の解明をめざして研究を遂行し,以下のような成果を得ることができた. (1)コイ普通筋の生体膜として重要な細胞膜,筋小胞体およびミトコンドリアに注目し,その脂質成分組成などを分析したところ,筋小胞体の組成が普通筋のものと最も良く類似していた.このことから,筋小胞体がコイ普通筋の最も主要な生体膜であり,精製も比較的容易であることから生体膜モデルとして利用できることが明らかとなった.(2)次に,分子内にアミノ基を有するホスファチジルエタノールアミン(PE)をフルオレサミンで標識した後,薄層クロマトグラフィーで分離し,蛍光強度により定量するという非常に高感度な分析法を確立した.これにより,極微量の筋小胞体においてもPEの定量が可能となり,筋小胞体リン脂質の加水分解の程度を示す指標として用いることが可能となった.(3)筋小胞体0〜15℃でインキュベートしたところ,いずれの温度帯びにおいてもCa^<2+>存在下でリン脂質の加水分解が促進された.従って,リン脂質加水分解酵素は筋小胞体に結合しており,Ca^<2+>によって活性化されるものと考えられた.また,細胞質画分を添加した場合に,リン脂質がより速やかに加水分解され,これもCa^<2+>依存性であった.このことより,細胞質画分にもCa^<2+>依存性のリン脂質加水分解酵素あるいはその活性化因子が存在することが予想された. 以上の結果から,何らかの方法を用いて筋細胞内Ca^<2+>濃度を低下させることによって魚類筋肉のリン脂質加水分解を阻害できるものと考えられる.今後は,生細胞を用いた実験により,筋細胞内Ca^<2+>濃度の上昇がリン脂質加水分解を誘導するという仮説を確認する予定である.また,今回の研究では確認できなかったリン脂質加水分解酵素の同定も合わせて行う予定である.
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