本研究は、代表的なAL(人工生命)技術の一つである遺伝的アルゴリズム(GA)やそれに類似したアルゴリズムを流出モデル定数の大域的探索に応用したものである。流出モデルには、わが国で広く用いられている菅原の直列4段タンクモデル(16定数)を採用した。得られた結果は、次のようにまとめられる。 1.数値実験に基づく大域的探索法の適応性の検討 これまでの局所的探索法としてシンプレックス法、パウエル法、AL技術に基づく大域的探索法としてGA、GAとシンプレックス法、パウエル法との組み合わせ法、GAに類似した進化の概念が取り入れられているSCE-UA法、局所的探索法を利用した大域的探索法としてマルチスタート・シンプレックス法、マルチスタート・パウエル法、シミュレーテッド・ア-ニリング法をそれぞれタンクモデル定数の探索に適用し、真の定数を既知とした数値実験的な検討に基づいて、これらの手法の適応性を比較検討した。その結果、SCE-UA法とマルチスタート・パウエル法の適応性は他の手法よりも明らかに優れており、これらは探索出発点の良否に影響されずに大域的な解が求められる頑健な手法であること、探索効率も考慮すればSCE-UA法が最良であること、などが明らかになった。 2大域的探索法の実用性の検討 実流域におけるタンクモデル定数探索に、上述の検討で最良の結果を与えたSCE-UA法を適用して、その実用性を検討した。解析に用いた資料は、滋賀県永源寺ダム流域の10年間の水文資料(同定期間は最初の4年間)である。その結果、SCE-UA法によると、従来の局所的探索法とは異なり、どのような探索出発天を設けてもほぼ同じモデル定数値、目的関数値が一貫して得られ、同定結果が探索出発点の設定にほとんど影響を受けないことが分かった。
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