研究概要 |
タンパク合成阻害条件下で起こる卵核胞期(GV期)ウシ卵の染色体凝集は,顆粒層細胞を介した卵細胞内cAMP濃度の増加に伴うcAMP依存型タンパクリン酸化酵素(PK-A)の活性化によって抑制される。本研究は,GV期ウシ卵の卵核胞内染色体凝集過程を制御しているPK-A活性が成熟促進因子(MPF)の活性化に関与しているか否かを検討した。 糸状染色体を有するGV期卵と凝集染色体を有するGV期卵のMPF構成タンパクであるp34cdc2キナーゼのリン酸化状態の変化をウエスタンブロッティング法により比較したところ,糸状染色体を有するGV期卵におけるp34cdc2キナーゼのSDS-PAGE上の移動度は,凝集染色体を有するGV期卵のそれと同じであつた。したがって,GV期ウシ卵の卵核胞内染色体凝集にp34cdc2キナーゼの脱リン酸化は関与していないと考えられた。一方,糸状染色体を有するGV期卵と凝集染色体を有するGV期卵のヒストンHlキナーゼ活性を液体シンチレーションカウンターを用いてそれぞれ測定したところ,凝集染色体を有するGV期卵のヒストンHlキナーゼ活性(65.4fmol/h/oocyte)が,糸状染色体を有するGV期卵のそれ(46.8fmol/h/oocyte)より有意に高かった。このことから,活性型ヒストンHlキナーゼがGVBD誘起前のウシ卵の染色体凝集に関わっていることが明らかとなった。 以上の結果から,GV期ウシ卵におけるPK-A活性の低下はp34cdc2キナーゼの脱リン酸化と関係しない系でヒストンHlキナーゼ活性を増加させ,卵核胞内の染色体凝集を惹起させることが明確になった。
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