研究概要 |
急性相タンパク質は、炎症性サイトカインが肝細胞を刺激することにより合成・分泌される血清タンパク質の総称であり、生体の防御・免疫機能に関与している。申請者はこれまでウシの急性相タンパク質の血中レベルの変動等について研究を進め、ラット等の実験動物やヒトでこれまで報告されてきたものとは異なるいくつかの特徴的な現象を見いだしてきた。本研究ではこれを更に発展させ,この現象の根幹となる遺伝子発現調節機構をin vitroの肝細胞培養実験系を用いて解明することを試み,いくつかの新知見を得ることができた。 [1]ウシ急性相タンパク質の型別(I型とII型)の検討 近年、ラットやヒト由来の材料を用いた研究結果に基づき、急性相タンパク質は作用するサイトカインの種類によりI型(インターロイキン(IL)-1と腫瘍壊死因子(TNF)が例外無くともに作用し,IL-6も効果があることがある)とII型(IL-6でのみ誘導される)に分類されるのが一般的となってきた。 申請者は,これがウシの急性相タンパク質にもあてはまるか否かを明らかにするため,ウシのハプトグロビン(Hp),C-反応性タンパク質(CRP),alpha 1-酸性糖タンパク質(al-AG),alpha 2-マクログロブリン(a2-MG)のcDNAをそれぞれクローニングしてこれをプローブとし,サイトカインで刺激したウシの初代培養肝細胞におけるこれら急性相タンパク質のmRNA発現量をNorthernハイブリダイゼーション法で解析した。その結果,ラットやヒトでI型急性相タンパク質と考えられているHp,CRP,al-AGがいずれもTNFとIL-6で誘導されるがIL-1では誘導されないことを明らかにした.すなわち,これまでラットやヒトで提唱されているI型とII型の分類はウシにあてはまらないことを発見し,ウシに特有の急性相タンパク質合成調節機構が存在することが示唆された。 [2]ウシ特有の上記機構解明の試み 上記(1)についてHp,CRP,al-AGがラットやヒトでI型であることを考えると、ウシでもこれらが基本的にはI型類似だが、何らかの因子の欠陥によりIL-1に不応答であると予想できる。このウシ肝細胞に欠けている因子を遺伝子相補により単離することを最終目標としてそれに不可欠なウシ肝細胞株の樹立を試みた。 ウシ初代培養肝細胞にSV40ウイルス由来の大型T抗原(LT)を導入して不死化することを試みた。哺乳動物細胞発現ベクターあるいはアデノウイルスに組み換えたLTを導入したところ,長期培養に耐える細胞がいくつか得られたが,残念ながらこれらでは急性相タンパク質遺伝子の発現を認めなかった。現在,不死化の方法を変更してさらにウシ肝細胞株樹立を試みている。
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