材料として2歳齢のコイの網膜を用いて網膜内髄鞘形成細胞の形態について検索した。また比較のため、コイの視神経および末梢神経あるいはニワトリ網膜を用いた。各組織から常法に従って、フォルマリン固定パラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色、髄鞘染色あるいは抗ミエリン塩基性蛋白(MBP)抗体および抗Glial Fibrillary Acidic Protein(GFAP)抗体を用いた酵素抗体法PAP法を施した。またその髄鞘および髄鞘形成細胞の超微形態を常法に従って電顕的に観察した。その結果、コイ網膜神経線維層は髄鞘染色弱陽性、MBP陰性であったが、電顕的にはニワトリ網膜と同様、単位膜の配列が疎な非定型的髄鞘から構成されていた。この髄鞘を形成する細胞は神経線維層内に存在する小型暗調の細胞であり、電顕的に細胞質の電子密度が高く、細胞内小器官が豊富であった。またコイおよびニワトリ視神経の星状膠細胞に認められるような細胞質内フィラメントや細胞間のデスモゾームが認められななかった。これらの特徴から、この細胞は希突起膠細胞の一種と考えられた。しかしながら同一の抗MBP血清においてニワトリ神経線維層は陽性であるが、コイにおいては陰性を示した。このことは使用した血清がラットMBPに対する抗体であることから、コイの髄鞘および希突起膠細胞を染色同定するためには、コイMBPに特異的な抗体の使用あるいは他のマーカーを使用する必要がある。 コイ網膜の浮遊細胞をラット希突起膠細胞の培養方法に従って、培養を試みた。その結果、培養希突起膠細胞の特徴である多数の樹状突起を有する細胞の出現には至っておらず、培養条件の検討が必要である。また上述したように市販の抗MBP血清ではコイ希突起膠細胞を染色することができず、細胞同定のマーカーも検討する必要がある。
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