母体の腎臓機能に障害が起きた場合、胎子の腎臓の発達が促進されることが証明されている。しかし、母体内に生じる腎臓への機能的要求の増大が直接胎子の腎臓を刺激するのか、胎子腎臓内の生長因子を介して腎臓を刺激するのかということは明らかではない。本研究では母体両側尿管結結紮によって母体の腎臓機能障害を引き起こした場合のラット胎子の腎臓の発達に関して以下の成績を得た。1.有糸分裂中の細胞に特異的に出現するproliferating cell nuclear antigen(PCNA)の局在を免疫組織化学的手法により調べた。胎生20日および22日齢において、近位尿細管におけるPCNA陽性細胞は結紮胎子の方が対照胎子に比べて多く認められ、近位尿細管上皮細胞の有糸分裂活性が母体両側尿管結紮により高まっていることがわかった。2.Epidermal growth factor(EGF)およびそのレセプター(EGF-R)の局在を免疫組織化学的手法により調べた。EGFは近位尿細管に局在し、胎生20日齢において結紮胎子の方が対照胎子に比べてその反応性は強かった。胎生20日および22日齢において、近位尿細管におけるEGF-Rの反応性が結紮胎子の方が対照胎子よりも強くなっていた。3.Insulin-like growth factor-I(IGF-I)ならびにそのレセプター(IGF-IR)の局在を免疫組織化学的手法により調べた。IGF-IRは腎小体ならびに近位尿細管に局在が認められ、胎生20日齢において結紮胎子の方が対照胎子よりもその反応性は強かった。4.以上の結果より、母体両側尿管結紮により、胎子腎臓の近位尿細管細胞の増殖が刺激され、それはEGFならびにIGF-Iの作用と関連していることが示唆された。すなわち、母体の腎臓機能の障害による胎子腎臓の発達への刺激作用には成長因子が関係していることが明らかになった。
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