本研究の目的は、外科的に作出した慢性腎不全の猫に対する摂取蛋白量の影響を光学および電子顕微鏡を用いて組織学的に検索するとともに、慢性腎不全の進展因子として注目されている各種サイトカインや成長因子の関わりを検証することであった。 慢性腎不全猫の作出に当たっては、右腎摘出に加え左腎動脈を部分結紮する腎亜全摘モデルの作出を試みたが、高度の手術手技を要することに加えて術後の状態が不安定であったことから、猫に与えるストレスが過大すぎると判断し、腎毒性を有する薬物(ピューロマイシン・アミノヌクレオシド)を投与することで腎障害の誘発を試みた。このピューロマイシン・アミノヌクレオシドはラットに特異的に腎障害を引き起こすことが知られているが、猫での報告はない。そのため、投与量および投与間隔を変えて実験を行う必要があった。その結果、ピューロマイシン・アミノヌクレオシドを猫に投与することによって蛋白尿をきたし、一部の糸球体に硬化病変が誘発されることが示唆された。また、電子顕微鏡によって糸球体上皮細胞足突起の癒合が観察された。血清生化学的にはBUNおよびクレアチニン値に上昇が認められた。尿中酵素ではNAGに変化が認められ、尿中サイトカインではIL-6が病変の進行に伴い増加する傾向が伺えた。 以上のことからピューロマイシン・アミノヌクレオシドは猫に腎障害をもたらすことが示唆された。このモデルにおける病変の進展に及ぼす摂取蛋白量の影響については、現在、実験を継続中である。
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