研究概要 |
精巣の発達あるいは精子発生を制御する物質を探索するために、精粗細胞の分裂開始時期或いは減数分裂開始時期に当たる未成熟ラット精巣成分を免疫原として数種の単クローン抗体の作製した。この中で単クローン抗体MC301は特に精母細胞に強い反応を示すため興味深い。抗原をMC301抗体アフィニティーカラムにより精製し、還元条件下でSDSPAGEにかけると、分子量91,000、65,000、50,000、48,000ダルトンの分子に分離され、生体ではこの4分子は会合していると考えられた。MC301に対するエピトープは91,000ダルトン分子の糖鎖を含む領域にあった。次に、MC301抗原の精子形成あるいは精巣の発達に対する機能を検索する目的で次のような生殖細胞の培養系を確立した。生後9日齢の精巣を(1)コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ処理後、(2)コラゲナーゼ/ディスパーゼで処理して細胞を分散し、ミリポアフィルター上で培養する。培養の経過とともに分散した細胞は次第に精細管様構造を再構築していく。この培養系にMC301抗原を添加すると、基底膜の形成とセルトリ細胞の形態的分化が促進され、結果として精細管の再構築過程が促進された。数種の調節因子(インシュリン、テストステロン、FSHなど)を培地に添加したところ、インシュリンがMC301抗原と同様に精細管の再構築過程を促進した。精細管再構築過程での基底膜成分の出現を、抗フィブロネクチン抗体及び抗ラミニン抗体による免疫組織化学により観察した。MC301抗原はラミニンの出現を促進するが、フィブロネクチンの出現には影響しなかった。ラミニンは精巣ではセルトリ細胞が特異的に産生していることから、MC301抗原はセルトリ細胞に働き、その機能を調節していると考えられた。MC301抗原は、血液精巣関門が形成される以前の精巣では主に筋様細胞に、関門形成以後の精巣では主に精母細胞に局在し、精巣発達の初期よりこれらの細胞で産生され、隣接するセルトリ細胞の分化や機能の調節に関与していると考えられた。
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