老年者の視覚機能低下の原因として、水晶体の透明度の低下、視細胞の感受性の低下や細胞数の減少が報告されている。視覚機能において、眼底の血流が重要な役割を持つと考えられる。老年者では一般に交感神経活動の亢進が示唆されており、加齢により目支配の頚部交感神経活動が高まり、血流を減少させている可能性が考えられる。そこで本研究では、先ず第一に成熟ラットと老齢ラットの安静時の眼底血流量を測定し、第二に、眼底血流調節における交感神経の関与を明らかにするため、交感神経の切断実験と刺激実験を行った。 実験は、6-7カ月齢および29-33カ月齢のFischerあるいはWistar系雄ラットを用い、麻酔下・人口呼吸下で実験を行った。老齢ラットは、外見的に目に白濁などの異常の見られないものを使用した。眼底血流は、水素クリアランス法あるいはレーザードップラー法で測定した。水晶体及び硝子体を取り除き、眼底を露出し、眼底表面に血流測定用のプローブを設置した。 (1)安静時の眼底血流の絶対値を水素クリアランス法を用いて測定した結果、老齢ラットの眼底血流量は、成熟ラットに比べて著しく低下していた。血流量は一般に血圧の影響を受けるが、両群間で血圧には差がなかった。 (2)頚部交感神経を切断した際の血流増加は、成熟ラットと老齢ラットで差はなかった。従って、交感神経活動は、老齢ラットの安静時血流の低下には関与していない。 (3)交感神経刺激に対する眼底血流の反応性は、1-20Hzの生理的範囲では、老齢ラットでも成熟ラットと同様に良く保たれていた。ただし、50Hzの刺激に対する反応性は低下しており、予備能力は低下していることが示唆された。
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