線維芽細胞や脳に発現するα-アクチニン分子はアクチン線維に対する結合がカルシウムによって抑制されるという性質を有する。この分子はアミノ基末端にはアクチン結合構造をカルボキシル基端にはカルシウム結合構造であるEF-ハンドモチーフを配しているが、逆平行に2量体を形成するため、一方のペプチド鎖のアクチン結合領域に他方のペプチド鎖のEF-ハンド構造領域が隣接することになる。そのためカルボキシル基端にカルシウムが結合するとこれが隣接するアクチン結合領域の機能に何らかの影響を与えるのではないかと考え、線維芽細胞型α-アクチニン分子のカルボキシル基端領域を欠損したリコンビナント分子を作製しアクチン線維との相互作用について解析を行った。線維芽細胞型α-アクチニンの全長をコードするcDNA中にはその3′端にSma IおよびSca I制限酵素で切断される部位が存在する。前者はカルシウム結合構造であるEF-ハンドモチーフの終末部に対応し、後者はさらにその41残基下流のアミノ酸と対応する。そこでこの酵素切断部位に終止コドンを挿入した。この操作で得られたリコンビナントα-アクチニンはカルボキシル基端の73残基(全長の約8%)および32残基(全長の約3.5%)を欠失しているがEF-ハンドモチーフは完全に保存されていることになる。このカルボキシル基端欠損分子を精製してアクチン線維との相互作用を解析したところアクチンに対する結合およびゲル化におけるカルシウム感受性の喪失が認められた。さらに、カルシウム非存在下における欠損分子のアクチン結合およびゲル化能は著しく抑制されたが、それはカルシウム存在下における線維芽細胞型分子(末欠損分子)と同程度のものであった。これらの結果はカルシウムによるα-アクチニンのアクチン結合調節がカルボキシル基末端の非常に局限された領域を介して行われることを強く示唆していた。
|