研究概要 |
外科的に切除された腎盂尿管癌122例のホルマリン固定材料をパラフィン包埋とし、これよりスライド切片を作製し、癌及び癌周囲の異形成部主体に抗p53、bcl-2、c-myc抗体を用いた免疫組織化学的検索と、in situ hybridization (ISH)によるHPV type-16,18DNAの検出を行った。非浸潤部及び浸潤部それぞれに於ける癌関連遺伝子産物の発現状況を比較検討する目的で、27例に関しては、上記材料の未固定新鮮材料を用いて凍結切片を作製し、非浸潤部及び浸潤部それぞれの癌組織より個別にGoelzらの方法に従いDNAを抽出し、これを鋳型としてp53遺伝子のExon4-9それぞれについてPCR-SSCP法を行い、Direct Sequencing法を用いて、p53遺伝子変異の有無を解析した。HPV type-16,-18に関しては、PCR法にて遺伝子増幅後、増幅物を制限酵素処理(Rsal,Ddel,Haelll処理)し、パターン解析によりHPVの感染の有無及びタイピングを明らかにし、ISHで得られた結果と比較検討を行った。さらに同様の材料にてDNAを抽出後制限酵素処理し、bcl-2、c-myc遺伝子の再構成についても検討した。 腎盂尿管癌122例中、抗p53抗体陽性例は27.0%(33/122)、ISHによるHPVtype-16,-18DNA陽性例は35.2%(43/122)にみられ、5例において異常p53蛋白発現とHPV感染の重複を同一腫瘍に認めた。27例に関しては、25.9%(7/27)にp53遺伝子の点突然変異を認め、これらはいずれも抗p53抗体陽性であった。PCR法によるHPVの感染の有無については、29.6%(8/27)にHPVtype-16DNAをみ、うち6例ではISHにおいてもHPVtype-16DNAを認めた。27例の未固定新鮮材料中7例の抗p53抗体陽性浸潤型移行上皮癌において、浸潤部に着目して抗bcl-2、c-myc抗体による免疫組織化学的検索を行ったところ、2例で抗bcl-2抗体による部分的な陽性を見た他はいずれも抗bcl-2、c-myc抗体陰性となり、同一腫瘍においても進展様式により、癌遺伝子の発現様式が変わり得るという前回の結果が指示された。なおこれら2例はbcl-2、c-myc遺伝子の再構成は認めなかった。癌周囲の異形成部においても60-70%の陽性率でHPV、p53、bcl-2をそれぞれ認め、これら異常が癌前駆段階より高率に見られることが示唆された。
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