大腸癌を対象に、プロイディ解析とfluorescence in situ hybridization(FISH)法を用いた染色体レベルの異常の検出を併せて行ない、分子生物学的な手法により明らかになっている遺伝子変化とプロイディ変化のギャップを埋めようとした。またFISHの結果明らかになった染色体の変化をマッピングし、一つの腫瘍内で、特定の染色体が進展に伴ってどのように変化するのかを明らかにしようとした。組織形態学的に進展の初期にあると考えられる異型の少ない部分(時に腺腫部分)を粘膜内に残す早期及び進行期の大腸癌を対象に、組織形態の違いを考慮しながら病変内部の複数ケ所の細胞を解析した。顕微測光によるプロイディ解析の結果、異型の少ない粘膜内病変部には多くの場合二倍体細胞のみが見られた。異倍体細胞は時に深部で認めたが、症例によっては深部でも二倍体細胞のみを認めた。1・7・17・18番染色体のセントロメアに対するプローブを用いてFISHを行った結果、二倍体細胞の部分(時に腺腫部分)でもしばしば7番染色体のtrisomy、18番染色体のmonosomyが検出された。このことは、腫瘍進展の初期でプロイディ解析上異常を認めない細胞にも7番染色体にコードされているいろいろな成長因子の遺伝子の変化、18番染色体長腕にコードされているDCC遺伝子の変化が起こっていることを示唆している。p53をコードしている17番染色体の変化は今まで解析した限りでは検出できなかったが、これはセントロメア領域をターゲットにしているために検出できなかったと考えられ、今後この方法にさらに分子生物学的手法を用いたLOHの解析を加えていかねばならないと考えている。またFISHで明らかになった染色体の数的異常をマッピングした結果、異倍体細胞は、二倍体細胞からDNAの多倍体化を経て生じたことが推測された。しかし、進展の過程で特定の染色体の変化が付け加わるということはなかった。
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