研究概要 |
乳癌はしばしば多発することが知られるが、一側同時性多発乳癌には、真の多中心性発生の群以外に、一つの非浸潤性乳癌の多発性浸潤例や乳腺内転移の症例等が含まれていると考えられる。このような一側性同時性多発乳癌の各症例の正確な起源を客観的手法によって知ることができれば、各症例におけるがんの広がりの程度や、局所進展様式上の特徴の把握が可能となる。そこで一側性同時性多発乳癌の各腫瘍の起源を、第16染色体長腕(16q)上のヘテロ接合性の消失(LOH)パターンの比較によって知ることが可能か否かをサザンブロット法を用いて解析した。これらの例は形態学的にA群:多中心性発生群11例、B群:単一非浸潤癌の多発性浸潤15例、C群:単一浸潤癌の乳房内転移4例、そして対象群であるD群:同時性両側性乳癌11例、E群:原発腫瘍と局所リンパ節転移巣の対19例、の合計5群に分類された。各症例の複数の乳癌結節よりDNAを抽出し、16q上の4種類の多型性DNAマーカーを用いて、症例毎に腫瘍間でのLOHのパターンを比較した。16qのLOHは浸潤の有無や組織像にかかわらず50%の乳癌症例で検出されること、また原発巣とリンパ節転移巣の間でパターンに変化がないことから、個々の乳癌において50%の確率でランダムに起き、浸潤・転移の過程でそのパターンは基本的に変化しない、という前提が成立した。A群、D群においては各腫瘍結節間でLOHのパターンは何れも11例中5例で一致、6例で不一致であり、各腫瘍結節が互いに独立して発生したと判断された。B,C,E群においては各群の15,4,19例全例において腫瘍結節間でのLOHのパターンは一致し、各症例において腫瘍の起源は単一であると判定された。LOHパターンの比較による一側同時性多発乳癌の起源の判定結果は、形態学的基準に基づいた起源の判定結果と一致し、診断的価値を有すると考えられた。
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