研究概要 |
ヒト初期胚発生の分子機構を明らかにすることは細胞生物学のみならず腫瘍発症機構の解明に重要な寄与をする。われわれが樹立したヒト精巣混合型胎児性癌由来EC細胞株G3は多分化能を有するとともにその分化過程でアポトーシスが惹起される。今まで,ヒトEC細胞の初期分化において熱ショック蛋白質HSP90が急激に発現低下すること、熱刺激によりHSP90発現が減少し、分化とアポトーシスが誘導されることを明らかにしてきた。本研究ではヒトEC細胞の分化・アポトーシス系におけるHSP90の意義を明らかにする目的で、1)G3細胞へのHSP90遺伝子導入による発現増強およびアンチセンスDNAによる発現抑制、2)EC細胞の分化前後でHSP90と分化会合している蛋白質の同定を行なった。その結果、1)HSP90アンチセンスDNAの添加は量依存性にHSP90発現を蛋白質レベルで50%まで抑制し、さらに細胞分化・アポトーシスを誘導した。またG3細胞の栄養膜細胞分化はHSP90β遺伝子導入により著明に阻害された。2)HSP90と共沈する分子を明らかにするため分化誘導前後で抗HSP90抗体を用いた免疫沈降、Western blotを施行したところ、分化誘導前において細胞周期関連蛋白cdc2、非受容体型チロシンキナーゼc-srcとc-fynがHSP90と会合しており、分化誘導後にそれらが解離することが明らかとなった。一方,このような分化誘導前後においてcdc2,c-src蛋白の発現量に変化はなかったが、c-srcのin vitroキナーゼアッセイによって、分化誘導前にキナーゼ活性がより高いことが判明した。これらの結果はHSP90の発現変化が会合する蛋白質の機能を制御し、ヒトEC細胞分化およびアポトーシスの調節に関与していることが示唆するものである。
|