研究概要 |
グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-PO)は、多様な酸化ストレス物質の中でも、病態の中核的な物質である過酸化脂質を基質としており、酸化ストレスによる病変発生に伴い発現が促進され、病変に対し即座に効果的な防御反応を行っている。我々は、GSH-POが細胞質およびミトコンドリアの双方に二重局在性を示す特異な酵素であることを、生化学的および免疫電顕的に証明した。更に、細胞が酸化ストレス受けた際に、GSH-POのミトコンドリア内への移入量が増大し、傷害を受け易いミトコンドリア膜を効果的に防御することを報告してきた。しかし、この酸化ストレス発生時のGSH-POのミトコンドリア内への移入促進の詳細なメカニズムは明かではない。本研究では、ミトコンドリア内への蛋白質の移送に重要な役割を果たしている熱ショック蛋白質(HSP)の合成が酸化ストレスにより誘導されることに着目し、酸化ストレスによるGSH-POのミトコンドリア内へ移送促進がこのHSPの機能亢進によりなされている可能性を追求した。その結果、(1)酸化ストレスによりGSH-POのミトコンドリア内への移送亢進モデル(動物モデル)を作製し、酸化ストレスによるHSP増強との関連性を示す結果が得られた。(2)in vitro translationによりde novo合成したGSH-POのミトコンドリア内への移送モデルの作製が可能となった。酸化ストレスおよびHSPの効果を検討中である。(3)プロテインキナーゼC(PKC)の活性化物質であるジアシルグリセロールは,過酸化されるとそのPKC活性化作用が著しく亢進することを明らかにした(B. B. R. C., 1995;217:654-660)。この結果から、酸化ストレスによるHSP発現増大は、酸化ストレスによる過酸化ジアシルグリセロールの発生→PKCの過剰な活性化→HSF(熱ショック因子、HSPの誘導因子)の燐酸化とHSP誘導を経て行われている可能性が示唆された。
|