研究概要 |
糞線虫症は多彩な病態を示すことがよく知られている.感染者の多くは無症状であるが,なかには憎悪を繰り返しながら長時間経過する者,僅かな免疫学的破綻を契機として重症化を来す者,また繰り返しの治療に対して難治性を示す者などがある.このような多彩な病態には,宿主側の要因のほかに寄生虫側の要因も関係していると考えられるが,これまで詳しく検討されたことはない.本研究は本症における病態発現と寄生虫側の要因との関係を探る立場から,分子生物学的手法を用いた糞線虫S.stercoralisの種内変異の検討を計画した. 研究実施計画では,種々の病態を示す糞線虫症患者から集めた糞線虫幼虫について,ゲノムDNAフィンガープリント解析,ミトコンドリアDNAフィンガープリント解析および塩基配列解析,18リボソームDNA塩基配列解析,およびゲノムDNAAP-PCR解析等により,総合的に検討を行う予定であった.しかし,当初予定していたスナネズミでの糞線虫幼虫の増殖に関して期待したほどの成果が得られなかったことに加えて,ネズミ糞線虫2種を用いた予備実験により,ミトコンドリアDNAを分離しその制限酵素パターンを分析するにはかなり多量の虫体を必要とすることが判明したため,ミトコンドリアDNAに関しては任意の部分をPCR法で増幅させ,制限酵素処理パターンを比較検討することに変更した. 現在患者7名より糞線虫幼虫を回収し,以上の計画に基づいて検討を行っている.
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