研究概要 |
我々は、宿主・寄生虫特異関係を決定する因子解明への生化学的アプローチとして、寄生虫の糖脂質に着目し、その組成・構造解析を行い、寄生虫の寄生現象と寄生虫糖脂質との関わりについて研究を行っている。すでにマンソン裂頭条虫より抽出した糖脂質(SEGLx)が、新しい糖鎖構造をもつ糖脂質であることは報告した(J.Biochem.114,1993)が、本年度はSEGLxの生合成経路を調べる目的で、SEGLx以外の糖脂質の詳細な構造解析を行った。SEGLxの前駆体物質であるCMHの化学構造については構造解析は終了し、CMHはほとんどがGal-CerでわずかにGal-Cerが含まれていることを明らかにし報告した(Lipids 30,1995)。その他の前駆体CDH,CTHについても化学構造の解析は終了し、CDHはGlcl-3Gall-Cerと微量のGall-6Gall-Cerからなり、CTHはGall-4Glcl-3Gall-CerとGlcl-(Gall-6)3Gal-Cerからなることが推定された。さらにSEGLxの還元末端のガラクトースの6位にもう1モルのガラクトースが付加した構造をもつ分子種GalSEGLxを発見し、現在投稿中である。このようにSEGLxおよびGalSEGLxの生合成経路をほぼ解明し、これらの新しい系列に属する糖脂質を“Spirometosides"としてシアトルで行われたThe 13th Inter-national Symposium on Glycoconjugates,1995で発表した。また最近我々は、この条虫が寄生した動物の血液中にSEGLxの抗体が存在すことを発見した。従って“Spirometosides"は感染機構に密接な関係をもっていると考えられ、糖脂質本来の機能面からも、さらに詳細な化学構造および局在部位を調べることは、寄生虫の宿主体内における存在状態と機能を考える上できわめて重要であると考えられる。今後は、ラジオアイソトープを用いた取り込み実験を行いSEGLxの生合成経路を決定すること、またSEGLxのモノクローナル抗体を作成し虫体における局在性の検索を行うことを目的とし、実験を継続する予定である。
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