チフス菌のVi抗原はこの菌の重要な病原因子として考えられてきたがVi陽性と陰性のisogenic strainsを用いた研究報告はなく今迄の結果が別の遺伝子変異によるものである可能性を否定できなかった。我々は染色体上の遺伝子に薬剤耐性遺伝子(cat)を挿入することにより、Vi抗原の生合成に必要な遺伝子(vipA)と調節遺伝子(vipR)をそれぞれ破壊した二つの変異株を作製した。これらの変異株および親株を用いチフス菌の感染成立に不可欠な血清抵抗性、上皮細胞への侵入性および食細胞内での増殖性にVi抗原が貢献しているかをin vitro実験系で調べた。 1.血清抵抗性:健常人から得た血清に1/10量の菌液(10^6CFU/ml)を加え一定時間37Cで保温し生残菌数を調べた。vipAとvipRの変異株では30min以内に菌は検出されなくなったが、親株では1時間後にも約半数の菌が生存していた。Vi抗原は血清抵抗性に必要であることを確認した。 上皮細胞への侵入性:Hela細胞への侵入性をしらべたが、変異株と親株のあいだに有意な違いは認められなかった。 食細胞内増殖性:チフス菌をヒト由来マクロファージ様細胞株THP-1に100:1の割合で 感染させ1時間培養後、ゲンタマイシン処理し一晩培養を続け菌数を測定した。感染1時間後の顕微鏡下での観察では菌株間による食細胞内への取り込みの差は認められなかったが、一晩培養後には顕著な差が観察された。親株、vipR変異株、vipA変異株の順で増殖性が顕著に低下していた。Vi抗原の変異株間(vipAとvipR)で見いだされた増殖性の違いについて現在解析中であるが、これらの結果からVi抗原は食細胞内での増殖におても必要であると考えられた。
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