研究概要 |
1.耐熱性溶血毒遺伝子(tdh)および類似溶血毒遺伝子(trh)のRFLPの解析 タイ国バンコク近郊の伝染病病院にて分離された患者由来腸炎ビブリオのうち、tdh and/or trh陽性の137株について、それら遺伝子のHin dIII切断パターンの多型性について解析を行った。その結果、tdhはD1-D5の5パターンに、trhはR1-R4の4パターンに分類された。D1タイプのtdhを持つ菌株はすべてtrh陰性であり、D2tdhを有するものはすべてR2trhを、D3tdhを有するものはすべてR4trhを保持していた。また、R1あるいはR3trhを有する菌株はすべてtdh陰性であった。以上のように臨床分離腸炎ビブリオ菌株内でtdhとtrhのHin dIII切断パターンの間には強い相関がみられた。 2.腸炎ビブリオゲノムDNA上でのtdhおよびtrh遺伝子の局在についての解析 tdhについてはこの遺伝子を染色体上に保有する菌株もプラスミド上に保有する菌株も存在したが、trhはすべて染色体上に存在しておりtrhをプラスミド上に有する菌株は見い出されなかった。いわゆる神奈川現象陽性株はほとんどすべてがtdhのみを染色体上に2コピー有していた。また、パルスフィールド電気泳動を用いた解析の結果、神奈川現象陽性株の保有する2コピーのtdh遺伝子、およびtdh,trh両保有株のtdhとtrh遺伝子は、それぞれ染色体上で互いに比較的近傍に存在することが明らかになった。 tdhおよびtrh遺伝子は、他菌種からhorisontal transferによって腸炎ビブリオに導入されたと推察されている。今回の結果から、すくなくともtdh,trh両遺伝子保有腸炎ビブリオ菌株においては、両遺伝子はそれぞれ独立に染色体に導入されたのではなく、両遺伝子の導入にはなんらかの関連があった可能性が示唆される。
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