研究概要 |
1.H. Pylori HSP60の精製と構造解析 (1)H. Pylori HSP60を確認するマウスモノクローナル抗体(mAb)の確立:H. Pylori HSP60の精製を目的として本菌HSP60 を認識するmAbの作製を試みた。BALB/cマウスへの投与抗原にはSDS-PAGEのゲルより回収したH. Pylori 60kDa蛋白抗原を用いた。またこの抗原を固相化したELISAによりスクリーニングを行った。その結果、2つのmAb(H9およびH20)を確立した。H9およびH20mAbのクラスおよびサブクラスはそれぞれlgG2aおよびlgMであった。どちらのmAbも熱ショック応答により大量に誘導された本菌60kDa抗原を認識したことより,H. Pylori HSP60を認識していると考えられた。 (2)H. Pylori HSP60を抗原構造:ELISAおよびイムノブロット法においてH9およびH20mAbはH. Pyloriと反応したが,FACSにおいてはH20mAbのみが反応した。これらの結果より,どちらのmAbも未変性および変性したどちらの状態のHSP60も認識した。またH20mAbの認識するエピトープは本菌菌体表層に存在しているが,H9mAbの認識するエピトープは菌体内に存在していると考えられた。 2.H. Pylori HSP60とヒト胃粘膜組織中HSP60とエピトープの相同性についての検討 (1)H. Pylori HSP60を認識する3C8mAbの認識するエピトープのアミノ酸配列:既に確立していたYersinia enterocolitica HSP60を認識するmAb,3C8がH. Pylori HSP60とヒト胃癌由来細胞株と反応することを明らかにした(J.Gastroenterol. 1996 inpress)。また本3C8mAbの認識するエピトープのアミノ酸配列にLue Gly Valの3つのアミノ酸が関与することを明らかにした(Microbiol. lmmunol. 40(1) 77-80 1996)。 (2)H. Pylori HSP60を認識するH9およびH20mAbの反応性:どちらのmAbもH. Pylori HSP60およびヒト胃癌由来細胞株MKN45と反応性を示した。しかしながらH9mAbはEsherichia coli, Shigella sonnei, Salmonella enteritidis, Vibrio cholerae, Pseudomonas aeruginosaと反応したがH20mAbは反応しなかった。これらの結果より,H. Pylori HSP60とヒト胃細胞に特異的なエピトープの存在する可能性が示唆された。 3.H. Pylori HSP60と病原因子との関連性 H. Pylori HSP60の発現と病原因子との相関性:本菌のHSP60の発現,ウレアーゼ活性,空胞化毒素産生性およびヒト胃癌由来細胞株への付着率との間の相関性について検討した結果,本菌HSP60の発現と付着率との間に相関性が認められることを明らかにした(J.Med.Microbiol. 1996 inpress)。
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