研究概要 |
成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-1は、試験管内で正常T細胞をトランスフォームすることが知られている。このトランスフォーメーションは、HTLV-1の転写活性化因子であるTax1が、幾つかのサイトカインや初期応答遺伝子を活性化することによって引き起こされるものと推察されているが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多い。我々は、HTLV-1でトランスフォームしたT細胞の異常増殖の分子機構を明らかにする目的で、細胞周期進行に関わる遺伝子群の発現を検討した。 HTLV-1感染T細胞株5種(MT-2,MT-4,OCH,C81-66-45,HUT102)およびHTLV-1非感染T細胞株4種(CEM,H9,Jurkat,Molt-4)について、サイクリン6種、サイクリン依存性キナーゼ4種、サイクリン依存性キナーゼインヒビター5種の遺伝子の発現をノーザンブロット、およびウエスタンブロットにより解析した。その結果、以下のような特徴的な知見が得られた。 (1)HTLV-1感染T細胞株は、cyclinD2を、非感染T細胞株は、cyclinD3を例外なく発現していた。 (2)p16^<Ink4>は、HTLV-1非感染T細胞株では全く発現していなかったが、ほとんどのHTLV-1感染T細胞株では発現が認められた。 (3)HTLV-1非感染T細胞株と比較して、HTLV-1感染T細胞株では、例外なくp18^<Ink4>の発現の顕著な低下が認められた。 (4)HTLV-1感染T細胞株は、例外なくp21^<Waf1/Cip1>を高レベルで発現していた。非感染T細胞株では、全く検出できなかった。 さらに、これらのうち、cyclinD2とp21^<Waf1/Cip1>の発現増強、およびp18^<Ink4>の発現低下は、我々が樹立した、Tax1の導入により不死化した末梢血由来のT細胞株に於いても認められ、これらの遺伝子発現の変化へのTax1の関与が強く示唆された。
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