これまでにin vitro実験において、カドミウムが近位尿細管由来上皮細胞のc-fos、c-mycおよびEgr-1遺伝子のmRNAレベルを著明に増加させることをノーザンブロット法を用いて明らかにした。本研究では、カドミウムによるc-fosおよびc-myc遺伝子増幅が、カドミウム投与動物の組織中で認められるかどうかについて、検討した。 正常な組織におけるc-fosおよびc-myc遺伝子の発現量は、一般的に極めて少なく、軽度の発現量の変化を検出することは必ずしも容易ではない。そこで、まず、reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法によるc-fosおよびc-myc遺伝子のmRNAレベルの定量に関する基礎的検討を行った。その結果、c-fosおよびc-myc遺伝子のmRNAレベルを、簡便に短時間で、従来のノーザンブロット法と同様に定量することが可能になった。 塩化カドミウムをマウスに皮下投与し(4mgカドミウム/kg体重)、組織中(脳、肝、腎)のc-fosおよびc-myc遺伝子のmRNAレベルをRT-PCR法により測定した。その結果、今回の投与実験では、in vitro実験で認められるような明らかな遺伝子発現の増幅はなかった。しかし、今後、カドミウム投与量および最終投与後からRNA分離までの時間を変えた実験が、必要と思われる。現在、カドミウムの総投与量を段階的に増加させたマウスの組織中mRNAレベル、さらにウエスタンブロット法を用いた各蛋白量の変化について、引き続き、検討を行っている。
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