現在、疫学的観察研究の解析方法としては、ロジスティック回帰やCox回帰が標準的になっている。疫学研究では、疾病発生の原因と考えられている要因への曝露が、ほんとうに疾病発生の原因となっているかどうか、その因果関係を調べることを目的としている。しかし、ロジスティック回帰、Cox回帰といった解析方法は、一般にはあまり認識されていない非常に強いモデルとしての仮定を必要としている。これらの仮定が満たされていない場合、ロジスティック回帰やCox回帰の結果は因果パラメータを推定しているわけではない。しかし、モデルに必要な仮定をデータからチェックすることは困難であり、強い仮定を必要としない因果パラメータの推定方法が望まれている。本研究では、要因のランダム割り付けが実施できるという理想的な状況では、因果リスク差を推定できることを示し、因果リスク差の推定方法を与えた。一方、疫学研究のように倫理的にランダム化が実施できない場合、特に疾病を発生するまでの時間を問題にしている状況では、G-estimationと呼ばれる因果パラメータ推定の方法が提案されている。この方法を、再発肝がんの新しい治療法が死亡するまでの時間を短縮できるかどうかを調べることに適用した。新治療は従来治療に比べ、生存時間を1.3倍延ばすという結果が得られた。この結果は、Cox回帰から得られた2.7倍とだいぶ食い違っている。G-estimatinに必要な計算は、統計パッケージSASを利用して実施可能であり、Cox回帰等に変わる有効な方法であることが分かった。
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