本年度の研究の方法・結果を以下にまとめた。 対象・方法:成犬(12〜13kg) 3頭11回に対し、pentobarbital 20〜30mg/kgで初期麻酔し、自発呼吸を保たせたまま、5〜6.5μg/kg/min (40〜50mg/hr)で維持麻酔をかけた。気管内に9〜10mmの気管内挿管チューブを挿入し、一方向弁を装着し、吸気と呼気を分離し、自発呼吸下で、50lのテドラ-バックに濃度をあらかじめ1v/v%の濃度に調整したTCEを充満させ、一方弁の吸気側に取り付け、3分間自発呼吸下で吸入させた。鼠径動脈より観血的動脈圧モニターライン、鼠径静脈よりSwan-Ganzカテーテル(SGカテ)を挿入し、曝露直後、30分後、60分後に動脈圧(SAPm)、肺動脈圧(PAPm)-中心静脈圧(CVP)、肺動脈楔入圧(PCWP)、心拍出量(CO)を測定した。暴露を行なわずに同じ条件で測定した3頭11回をコントロール群とした。 結果:TCE吸入群とコントロール群をANOVAによって解析したところ、SAPm、体血管抵抗(SVR)、CO、PAPmについて、交互作用を認め、さらに両群においてそれのパラメーター変化率に有意な変化を認め、それらは経時的な変化を認めた(p<0.05)。さらに、各群においてone-way repeated ANOVAを行ったところ、TCE吸入群では有意な経時的変化を認めた(p<0.05)がコントロール群では経時的変化を認めなかった。従って、TCE吸入によってPAPm、COは有意に上昇し、SAPm、SVRは有意に低下した。 考察:本実験の結果はTCE吸入により、従来報告されていた抹消血管抵抗の低下に伴う体血圧の低下を認めたが、心拍出量はむしろ代償機序として上昇していた。さらに肺血圧の上昇を認めた。肺血圧の上昇の発生機序として心拍出量の増大、肺血管攣縮などの存在が考えられ、TCE吸入による急性中毒の症状として、肺高血圧症から一過性の右心負荷が生じる可能性も示唆するものと思われた。
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