本年度は血管内皮細胞表面におけるP-selectinの発現動態とその分子機構に関する検討を行い、下記の結果を得た。 [成績]1.初代培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をthrombin 1U/mlで刺激すると、間接免疫蛍光法で測定したP-selectinの表面発現量は2分後に最大となり、以後漸減し、120〜180分後に刺激前の発現量に戻った。 2.Thrombin刺激によるP-selectinの表面発現は、アラキドン酸およびK252a、staurosporine、calphostin Cの各種蛋白リン酸化酵素阻害薬の前処理の影響を認めなかった。細胞骨格蛋白の関与に関する検討では、P-selectinの表面発現は、colchicineの前処理により約20%抑制されたが、cytochalasin D前処理の影響は見られなかった。 3.Thrombin 1 U/mlで180分間隔の反復刺激を行ったところ、P-selectinの細胞表面発現は繰り返し誘導された。これはactinomycin D処理による影響を認めず、新たな蛋白合成を介さない、細胞内局在変化によると考えられた。 4.^<51>Cr標識した白血病細胞株HL60を用いた接着実験では、HL60のHUVECへの背着率はthrombin刺激の前後で約3倍に増加した。180分後には刺激前と同等の接着率に戻り、再刺激により再び接着率の有位な増加を認めた。 [総括]Thrombin刺激によりHUVEC表面におけるP-selectinは繰り返し誘導され、その発現機構に微小管が部分的に関与すること、またP-selectinにrecycling機構が存在することが明かとなった。またrecyclingされたP-selectinは白血球に対する接着能を保持しており、炎症局所において繰り返し白血球との接着に重要な役割を果たすと考えられた。
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