肝線維化に重要な役割を果たしている伊東細胞は線維化した部位に強く集積しているが、これには伊東細胞の増殖以外に遊走能も関与していると考えられる。このため、その遊走能を明らかにすることを目的とし、今回は、炎症性サイトカインであるplatelet-derived growth factor(以下、PDGF)に対する伊東細胞の遊走能をBoyden Chamber法にて解析する計画を立てた。しかしながら、今回の実験に際し、以下のような問題点に直面し十分な成果は得られなかった。分離直後の伊東細胞では、PDGF receptorは認められず、培養数日後よりPDGF receptorの発現を認めるため、PDGFに対する伊東細胞の遊走能を検討するには、数日間培養した細胞をトリプシン処理でカルチャーデイシュより剥離しBoyden Chamberに移す必要があった。このトリプシン処理により細胞膜に障害が加わるためか、PDGFに対する遊走能は認められなかった。この実験において、PDGFを対象に選んだ問題点はあるが、肝線維化過程にPDGFが大きく関与していることが報告され、線維芽細胞や平滑筋細胞においてもPDGFに対する遊走能が報告されていることからこれらの細胞と近い性質を有する伊東細胞にも同様な作用があると考えられるため、現在、トリプシン処理に関する問題点も含め至適条件を検討中である。
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