研究概要 |
近年、胃十二指腸潰瘍や胃炎の原因としてHelocobacter pylori(以下Hp)は世界的に大きな注目を集めているが、特に抗生物質による除菌治療が従来の難治性潰瘍をも治癒せしめる事実などから、胃十二指腸疾患の疾患概念は大きな変貌を遂げた。一方、胃癌との関連についても、本年WHOがHpを胃癌に対する「definite carcinogen」であると認定したように、欧米では既に胃癌の発症にHp感染が関連していることは確実とされている。また申請者は国立がんセンター中央病院において胃癌診断と同時期に得られた約1300例の保存血清を用いたケースコントロール研究を行い、胃癌の前癌状態としての萎縮性胃炎の重要性をHpとの関連において再認識したが、萎縮が本当にHp感染によって生じているのか否か、またその発生機序については現在なお明らかにされていない。 萎縮性胃炎では、胃固有腺細胞が選択的に減少または消失するが、腺窩上皮の粘膜細胞や腺底部の内分泌細胞は減少せずむしろ過形成を示すことも多い。Hp感染とその胃粘膜障害性についてはウレアーゼによるアンモニア生成、空砲化毒素による直接障害や、好中球や単核球による細胞性免疫の関与等、種々の因子の存在が明らかとなり、潰瘍の成因論に関してはかなり研究が進んでいるが、萎縮性胃炎を説明し得るようなHpの腺細胞に対する選択的障害性に関する報告は未だ見られない。そこで、本研究ではHp感染による萎縮性胃炎の発症機序を解明することを目的とした。マウス正常胃粘膜細胞を用いて細胞レベルの実験を行った。EGF, E. coli培養上清、E. coliのLipopolysaccaride (LPS)、Helicobacter pylori培養上清を用いて細胞を刺激したところ、IL-1αをはじめとする炎症性サイトカインのmRNA増加を認めた。現在その追試をすると共にHelicobacter感染マウス胃及びヒト胃手術材料を用いてIn situバイブリダイゼーションによる検討を行っているところである。
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